NCS Multistage Inc. v. Nine Energy Service, Inc.
Federal Circuit, 2026-09-14
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新規性喪失の例外規定 AIA 102条(b)(1)(B)のPublic Disclosure(公衆に公開)とは?

Summarized by Tatsuo YABE on 2026-09-19

本件の争点のひとつは、AIA102条(b)(1)(B)の新規性喪失の例外規定の適用に関する。そもそも2011年に成立したAIA(アメリカ発明者法)によって米国特許法は先発明主義から先願主義に変わった(適用されるのは2013年3月16日以降に有効出願日を持つ米国出願)。102条(a)(1)[see [**]]は有効出願日前の刊行物、販売、公用が引例となる。102条(a)(2)では先願(本願の有効出願日前に有効に出願された米国出願)が引例となる。102条(b)は新規性喪失の例外を規定しており、今回問題となったのは被告の販売行為(引例となりうる行為)前の権利者による特許製品の販売行為が102条(b)(1)(B)[see [***]]で規定する「公表 (public disclosure)」に該当するかであった。

結論から云うと、権利者の販売行為(守秘義務無し)が実施されたとしても、その販売行為によって問題となる発明の特徴が十分に公衆に開示された状態でない場合には102条(b)(1)(B)で規定する「公衆への公開(公表)」には該当しない。 2024年のSanho事件[1]と同じ趣旨で、即ち、特許された発明主題が製品の内部にあり当業者による分解、あるいは、分析によってしか理解できないような構造、あるいは、制御システムのような場合には公衆による開示には該当しない(但し、Sanho事件[1]では102条(b)(2)(B)が問題となった)。(筆者)

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■ 当事者、特許および特許発明の概要
原告NCS Multistage Inc.(以下「NCS」)は、被告Nine Energy Service, Inc.(以下「Nine」)を、米国特許第10,465,445号(445特許)の侵害で提訴した。

445特許は、石油・天然ガス井において、掘削済みの坑井(wellbore)に長いケーシング(casing string)を挿入する際に用いるcasing float toolに関する。水平井・傾斜井ではケーシングと坑井との摩擦が大きくなるため、ケーシング内部の一部をrupture disc(破裂板)で一時的に密閉して浮力を利用し、ケーシングを奥まで送り込みやすくする。所定位置への設置後、圧力を加えて破裂板による密閉を解除し、内部流路を確保する。

■ 特許クレームで問題となった構成要素(詳細略)
代表的なclaim 28はrupture disc assemblyを備えるfloat toolを規定し、破裂板30が所定の圧力条件でsealing engagementから外れること、さらに破裂板の取付部分の内径(d2)がケーシング(d1)の内径より大きいことなどを規定していた。訴訟では特に内径およびケーシングのクレーム解釈が争われ、CAFCは地裁の解釈に誤りがあるとした。本稿ではこの点の詳細は省略する。

 

■ 事実関係・地裁判決
NCSは、NineのBreakThru Casing Flotation Deviceが445特許を侵害すると主張した。被告NINEは第3者TCOが455特許発明に関わる製品(TDP-PO工具)を引例とし455特許の無効を主張した。陪審はNCS側に有利な評決を下し、地裁はNineによる直接侵害、侵害の対象となるクレームの有効性および損害賠償を認めた。

先行技術との関係で重要な時系列は次のとおりである。

•          2012年7月:NCSがAirLock deviceをTundraに販売。
•          2012年8月:第三者TCOがTDP-PO toolをApacheに販売。
•          2013年1月まで:ApacheがTDP-PO toolを現場で使用。
•          2013年2月5日:NCSが445特許につながる仮出願を実施。
•          2013年3月16日:Pre-AIA102条とAIA102条の適用を決定する重要な日(Critical Date)
•          2013年6月28日:仮出願に優先権を主張し本出願を実施(即ち、Transition出願)
•          その後:本出願を経て445特許が成立。


NCSは、自己の2012年7月のAirLock販売が先行するpublic disclosure(公表)であるため、その後のTCOによるApacheへの販売は新規性例外規定AIA102条(b)(1)(B)により引例から除外されると主張した。

455特許の出願審査にAIA §102が適用された理由
NCSは、本件仮出願を2013年3月16日(Critical Date)より前の2013年2月5日に実施し、仮出願に優先権を主張し2013年6月28日に本出願(後に445特許)を実施した。しかし、445特許のクレームの一部はこの仮出願に十分なsupportを有していなかったため当該本出願の審査にはAIA §102が適用された。実務上、priority chainに2013年3月16日以前の仮出願が存在するだけではpre-AIA §102の適用は決まらず、問題となる本出願のクレームがその仮出願による有効出願日を実際に享受できるかを確認する必要がある。

■ CAFCの判断
TCOの販売行為は§102(a)(1)の引例に該当するか?
TCOによる2012年8月のApacheへのTDP-PO toolの販売、およびApacheによる使用は少なくとも445特許の基礎となる仮出願日(2013年2月)以前に実施されているのでAIA102条(a)(1)に基づく引例になりうると判示した。

NCSの先行販売がAIA102条(b)(1)(B)のpublic disclosure(公衆への公開)に該当するか?
NCSの製品、AirLock、はTundraに販売されたもので、製品が広く配布されたり、公衆が自由に調査できる場所に置かれた証拠はなかった。さらに、AirLockは黒色のチューブに封入されており、AirLockの内部構造を見るにはチューブを切断する必要があった。外観からrupture disc(破裂ディスク)、その取付構造、内径などのクレーム上重要な特徴を公衆が理解できたことを示す証拠もなかった。したがって、製品を販売したという事実だけでは、その製品に内在するクレームの構成要素を公衆に開示したことにはならないとCAFCは判断した。

Sanho Corp. v. Kaijet[1]との関係
Sanho判決で争点となったのはAIA102条(b)(2)(B)における”public disclosure”の解釈で、製品の販売だけで、その製品に具現化された発明が当然に“publicly disclosed”されたことにはならないとした。重要なのは、公衆が特許された発明、すなわちクレームの特徴を知り得る状態になったか否かである。Sanho判決によると、AIA102条では公衆に公開されていない販売行為も「公開 (disclosure)」に含まれる。しかし102条(b)(2)(B)で云う「公表 (public disclosure)」と102条で規定する「公開 (disclosure)」は違う意味合いで立法されている102条(b)(2)(B)で云う「公衆への公開(公表)」は「公開」という用語の狭い意味と解釈される。 ⇒以下[****]を参照

NCS判決は、AIA102条(b)(1)(B)とAIA102条(b)(2)(B)が同じ“publicly disclosed(公衆へ公開された)”という文言を用いていることを指摘し、Sanho判決の解釈を§102(b)(1)(B)にも適用した。

CAFCの結論
CAFCは、地裁によるクレーム解釈に誤りがあると判断した。また、NCSのAirLock販売はAIA102条(b)(1)(B)のpublic disclosureには該当せず、TCOのTDP-PO toolの販売およびApacheによる使用はAIA102条(a)(1)の引例に該当するとした。

故に、地裁判決を破棄差し戻す

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Reference:

[*] Sanho Corp. v. Kaijet Technology International Ltd., 108 F.4th 1376 (Fed. Cir. 2024)tatsuoyabe.aki.gs/2024_07_31_Sanho_v_Kaijet_102_Exception.html

[**]
AIA 102(a)(1)
有効出願日前の他者による開示(disclosure)


[***] AIA 102(b)(1)(B): AIA 102(a)(1)に対する新規性喪失の例外規定
GP内(有効出願日前の1年以内)の発明者による公表(先行技術の開示前)によって先行技術を排除できる。


[****] NCSの判示を図示すると・・・